書くことが好きだった
私はもともと、文章を書くことが好きな子どもでした。小学生の頃から作文が好きで、宿題とは関係なく原稿用紙に文章を書いていたりしていました。先生から「小説家になれば」と言われたこともありましたが、物語を作るというより、自分が見たことや感じたことを誰かに伝えることの方が好きだったんです。中学生の頃になると、将来は雑誌の編集者やライターのような仕事をしてみたいと思うようになりました。音楽が好きで、バンドに夢中だった時期もあり、「演奏する側よりも、取材して記事を書く側の仕事をしてみたい」と思ったのがきっかけです。そこで専門学校では音楽ライターのコースに進み、その後大学に進学してから、出版社に就職しました。

人を繋いでつくる作品
最初に働いたのは美容業界の専門誌をつくる出版社でした。正直、当時は美容の知識があるわけでもなかったのですが、実際に仕事をしてみると、その世界の奥深さに驚きました。化粧品会社と美容師の世界は同じように見えて実は違うこと、美容師の方々が作品をつくって撮影をするクリエイティブな文化があることなど、知らない世界に触れることがとても面白かったんです。最初は、文章を書く仕事がしたいという気持ちが強かったのですが、仕事を続けるうちに、雑誌というものを作り上げていく編集の仕事そのものの面白さに惹かれていきました。この企画には誰を呼ぼうか、このテーマにはどんなカメラマンが合うだろうか、美容師、カメラマン、メイク、編集。いろいろな人をつなぎながら一つの作品を作っていく。その過程がとても面白くて、編集という仕事に夢中になっていました。今思えば、その頃から私は、人と人をつなぎながら何かをつくる仕事が好きだったのだと思います。富岡に戻ってからも、その感覚は変わっていません。
自分の働き方を見つめて
出版社で仕事を続ける中で、少しずつ「自分の働き方」について考えるようになりました。会社という枠の中ではなく、自分の力で仕事をしてみたいと思い、30代半ばでフリーランスとして独立しました。最初はもちろん簡単ではありませんでした。出版社や編集プロダクションに連絡を取り、これまでの実績をまとめた資料を持って会いに行き、仕事をいただけないか相談するところからのスタートでした。すぐに結果が出たわけではありませんが、少しずつ仕事をいただけるようになり、紹介でつながることも増えていきました。フリーランスになってから2年ほど経った頃には、なんとか続けていけるかもしれないと思えるようになりました。場所に縛られなくても仕事は続けていける。そう感じられたことが、のちに富岡に戻るという選択にもつながっていったのだと思います。

場所に縛られない仕事だからこそ
富岡に戻るきっかけになったのは結婚でした。いわき出身の今の夫と出会い、結婚を機に福島で暮らすことになりました。当時は東京に住み続けるという選択もありましたが、フリーランスとしての仕事も少しずつ軌道に乗り始めていた頃でした。パソコンがあればどこでも仕事はできる。そう思えるようになっていたこともあり、それなら地元に戻って暮らすのもいいかもしれないと自然に考えるようになりました。久しぶりに戻った富岡は、子どもの頃の記憶とは少し違って見える部分もありました。それでも、どこか懐かしい風景や人のつながりが残っていて、ここで暮らすのもいいかもしれないと思えました。

この町で、人と人をつなぐ仕事を
現在は、合同会社knotとして編集や映像製作の仕事をしています。「knot」という言葉は、英語で「結び目」という意味があります。会社の紹介では、「ゼロから立ち上がったこの場所で、人と人・地域と人・人とモノを繋ぐ結び目のような存在になりたい」という言葉を掲げています。富岡に戻ってからは、地域の取り組みや活動を伝える広報物の制作や記事の編集などの仕事をしています。自治体の広報や事業に関わるものもあれば、地域の中で動いているさまざまな取り組みを取材し、形にしていくような仕事も増えてきました。こうした仕事のきっかけになったのが、地域おこし協力隊としての活動でした。役場の担当の方々にも支えていただきながら活動する中で、町に関わる仕事を少しずつ任せていただけるようになりました。東京で編集の仕事をしていた頃も、いろいろな人が関わりながら一つの作品をつくっていく面白さを感じていましたが、今はその舞台が富岡や浜通りに変わりました。地域で活動している人や、新しいことを始めようとしている人たちの思いを、編集やデザインという形でつないでいく。この町で、人と人、地域と人、人とモノをつなぐ「結び目」のような存在になれたらと思っています。
移住は、ゆっくり考えてもいいと思う
移住については、あまり焦って決めなくてもいいのではないかと思っています。もし気になっている町があるなら、何度か通ってみて、その土地の空気や人の雰囲気を感じてみる。実際に足を運んでみて、「ここで暮らしてみたい」と思えたら、そのときに移住を考えればいいのではないでしょうか。富岡には、お試し住宅のように実際の暮らしを体験できる仕組みもあります。季節を変えて訪れてみたり、少し長く滞在してみたりしながら、自分に合う場所かどうかをゆっくり考えることもできる町だと思います。私自身、富岡に戻ってから、この町でいろいろな人と出会いながら仕事を続けてきました。編集やデザインの仕事を通して、人と人がつながり、新しい取り組みが生まれていく。その様子を近くで見られることは、とても面白いことだと感じています。地元で育った私には当たり前に感じてしまうことでも、この町には、外から来た人だからこそ気づく魅力があるのかもしれません。もし富岡に興味を持ってくれる人がいたら、まずは一度、実際に訪れてみてほしいと思います。きっと、それぞれの形でこの町との関わり方が見つかるのではないでしょうか。