福島県双葉郡の中でも大きな存在感を放つ、富岡町図書館。蔵書数は視聴覚資料などを含めて約11万点にのぼります。
2004年10月に開館し、震災による休館を経て、2018年4月に待望の再開館を果たしました。 広々とした美しい空間が広がる館内は、町民の方々や近隣住民の方々からも「居心地が良い」「面白い取り組みをしている」と高い評価を得ています。
この図書館を支えているのが、司書の伊藤さんと古谷さんです。実はおふたりとも、再開館のタイミングに合わせて県外から富岡町へ移住してきた「先輩移住者」でもあります。 今回は、移住者ならではの視点から見た富岡町の魅力や、図書館という場所が育む温かいコミュニティについてお話をうかがいました。

直感で「住めそう」と感じたまち。気負わず始まった“とみおかくらし”
まずは、おふたりが富岡町へ移住した経緯と、まちの第一印象について伺いました。
古谷さん:私は以前、東京都で非正規雇用の図書館職員として働いていました。正規の職場で根を下ろして、やりがいを持てる場所を探す中で富岡町図書館の求人を見つけ、2017年の11月に一度まちを見に来ました。
当時はまだ“復興はこれから”という感じでした。さくらモールとみおか(スーパーマーケット「ヨークベニマル」と、ホームセンター「ダイユーエイト」、ドラッグストア「ツルハドラッグ」が集まった複合施設)が真新しくて、町の中に子どもの姿はなく、自動販売機に近づいたら震災前のもので使えなかったのを覚えています。でも、自然環境がすごく自分に合っていると感じて、「ここは住めそうだ」と直感し、採用試験を受けようと決めました。
伊藤さん:私は岩手県陸前高田市で図書館の立ち上げに関わった後、2019年に富岡町へ来ました。実家が宮城県の気仙沼で、夜になれば街灯も少ないような海沿いの環境だったので、富岡町を見に来たときも地元に似た雰囲気を感じて不安は全然なかったですね。気仙沼よりちょっと暖かいくらいで(笑)。

さらに、おふたりが富岡町図書館で働くことになった背景には、ちょっとした巡り合わせもあったと言います。
伊藤さん:実は私、2018年の最初の募集の時にも一度受けていて、その時は駄目だったんです。もう募集はないだろうと思っていたら翌年にまた募集があったので、「今度はもしかすると縁があるかも」と応募して、採用していただきました。
古谷さん:私が2017年に初めて富岡へ来た時は、図書館はまだ準備中で中には入れませんでした。でも、文化交流センター『学びの森』のガラス越しに、開館に向けて職員の方々が準備しているのを見て、大きくてきれいな図書館だなと心を惹かれていましたね。
チラシ1枚から残す。まちの記憶と文化をつなぐ図書館の役割

現在の図書館は、単に本を貸し出すだけでなく、過去と未来、そして多様な文化をつなぐ使命を担っています。古谷さんが特に力を入れているのが「地域資料の保存」です。
古谷さん:富岡町に関する情報の専門図書館であるという自負を持ち、チラシ1枚からパンフレット類まで、あらゆるものを資料として残しています。震災以前のまちの様子を知りたいというお問い合わせは、震災前からの町民の方からも、新しく移住してこられた方からもよくいただきます。今起きている小さな変化も、10年後には大切な情報になる。そう思って、地域資料の保存と整理、提供に力を入れています。

また、富岡町図書館では、異文化に触れるイベントも積極的に開催しています。
古谷さん:図書館は文化の集積施設です。直接は本に関係していなくても、双葉郡の事業者さんにフォーカスしてコーヒーを淹れるイベントをやったり、ネパールとの国交樹立70周年に合わせてネパール音楽のコンサートを企画したりしています。知っている文化が一つ増えると、守りたい文化が一つ増えると思うので、そういった機会を図書館として提供していきたいですね。
遊び心いっぱいの仕掛けで、本をもっと身近に



児童サービスを担当する伊藤さんが中心となって行っているのが、子どもたちの読書習慣を育むためのユニークな取り組みです。学校図書館とも連携しながら、図書館を生活の一部にしてもらうための工夫を凝らしています。
伊藤さん:0歳児向けのファーストブックリストを作っておすすめの絵本を紹介したり、年齢に合わせて興味のある本を探すお手伝いをしたりしています。中でも一番盛り上がったのが、春の子どもの読書週間に合わせて開催した『おもちゃ屋さん』のイベントです。
古谷さん:期間中、子どもたちが本を借りるとスタンプがもらえるんです。スタンプを貯めると、職員が作った手作りおもちゃと交換できたりします。おもちゃは職員7人全員で作っています。ひとり3種類をそれぞれ3個以上作るというノルマ制です(笑)。
伊藤さん:今年は120個くらい出ましたね! 折り紙で作った大きな青虫(絵本『はらぺこあおむし』)とか、過去には『ワニワニパニック』のような大作を作ってくれた人もいました。子どもたちが喜んでくれるのが一番ですし、はしゃぐ声が聞こえると私たちも事務室でニヤニヤしてしまいます。
移動図書館が育む、人と人との温かいコミュニケーション

富岡町図書館を語る上で欠かせないのが『移動図書館』の存在です。
再開館当初、移動手段がなくて図書館に来られない方のために、自分たちから外に本を持って行こう! とスタートしたこの取り組みは、広域連携として近隣の市町村などにもサービスを届けています。
古谷さん:毎月決まった時間に同じ場所へ行くので、そこで顔を合わせるうちに、利用者さん同士が本を勧め合うような関係性ができてきているんです。
伊藤さん:いつも利用してくれている方が来なかったりすると「足が痛いって言っていたけど大丈夫かな」と心配になったりします。「次はどんな本を読もうかな。オススメはありますか?」といった読書相談も増えましたね。
古谷さん:年末に「今年も1年間ありがとう」とお手紙をいただいたり、図書館の本を参考にして育てたという作物を見せていただいたり。そういう何気ないやり取りが本当に嬉しいです。
まちとつながる第一歩に。自分のペースで参加できる「図書館ボランティア」

富岡町図書館が町民から愛されている理由の一つに、利用者としてだけでなく“図書館を一緒につくる側”として関われる『図書館ボランティア』の仕組みがあります。
古谷さん:現在、多くの方々が思い思いの形で活動しています。活動内容は、返却された本を正しい場所に戻す「配架・書架整理」をはじめ、本を長持ちさせるための「装備・修理」、地域の記録を残す「新聞採録」、子どもたちへの「読み聞かせ」など多岐にわたります。
伊藤さん:自分の都合に合わせて活動の予定を決められるので、参加しやすいと思います。作業内容は私たち図書館の職員が丁寧にお教えします。ボランティアさんからは 「家から出るきっかけになりました」や、「いろいろな本に触れることができて楽しいです」などの声をいただいています。
いきなり地域活動に飛び込むのはハードルが高いと感じる方でも、図書館という穏やかな空間なら、自分のペースで無理なく町と関わり始めることができます。
本という共通のテーマを通して、職員さんや他の町民の方々との交流が生まれる図書館ボランティア。それは、移住者にとって“富岡町の日常”に心地よく溶け込むための、入り口となるかもしれません。
移住を検討者している方へメッセージ



館内では、町民の方々が雑誌をめくりながらお喋りをしたり、カウンターで職員さんに気さくに話しかけたりと、とても距離の近い温かい時間が流れています。
最後に、富岡町への移住を検討している方へ、先輩移住者でもあるおふたりからメッセージをいただきました。
古谷さん:目的がなくても来られるのが、図書館の良いところだと思っています。意味や価値を考えすぎず、気の向くままに館内を歩いて興味が見つかる場所。私自身、引っ越してきてすぐは孤独な時間もありましたが、図書館で本に触れる中で癒しや出会いがありました。
移住するときはエネルギーが必要で、それが“怖い”と感じるかもしれませんが、思い切りよく飛び込んでみると楽しいですよ。富岡にはチャレンジャーが多いから、自分もチャレンジャーになるのも楽しいし、誰かのチャレンジの結果を楽しみに来るだけでもいいと思います。
伊藤さん:私は逆に、周りが心配するくらい何も考えずに移住しました(笑)。この図書館で仕事をしたいから来た、という感じです。だから、あまり強い思いやプレッシャーを背負わずに、自然体で来ていただければいいのかなと思います。
図書館には、何も考えずに来て、思いがけず良いものに出会える時間が待っています。勉強でも仕事でも、自分の好きな場所で思い思いの時間を過ごせる自由度があるので、まずはぜひ気軽に足を運んでみてください。
おわりに…
「子どもの頃、図書館に入り浸っていた」と笑って話す伊藤さんと、「人生初の引っ越しが富岡町だった」と語る古谷さん。
そんな朗らかな司書さんたちがいる富岡町図書館は、本を借りるだけでなく、心休まる居場所として、そして新しい出会いが生まれるハブとして、まちに無くてはならない存在になっています。
富岡町での暮らしに興味を持った方は、ぜひこの素敵な図書館を訪れてみてください。
写真:鈴木宇宙
インタビュー・文:遠藤真耶(合同会社knot)