ご家族3人で富岡町に移住された及川健(きよし)さんとみよさん。小さなお子さんと一緒に移住することに少し不安はあったものの、富岡町の住民の温かさに触れ、毎日楽しく暮らしているそうです。放射線のことも自分たちなりに勉強し、今では町内で農作物を育ててみたいと思うまでになったおふたり。富岡町での子育てのこと、暮らしのこと、これからのことを、たっぷりお聞きしました。
子育て支援の充実と仕事のしやすさ
―富岡に移住されたのはいつですか?
及川みよさん:2020年3月に宮城県から引っ越してきました。
及川健さん:僕は福島県のいわき市出身で、妻が宮城県出身です。僕が建設関係の仕事をしていて、富岡での仕事がメインになったので、移住を決意しました。
みよさん:実家が自営業なので、その仕事を手伝いつつ宮城と福島を行ったり来たりしていたんですけど、そろそろ腰を据えて富岡町で暮らそうということになって。移住後にパートタイムの仕事を探して、数ヶ月前から近くの町にある高校の学生寮で働いています。
―移住者にとって、雇用があるかどうかは気になるところだと思います。仕事はすんなり見つかったのでしょうか?
みよさん:夫も働いているし、子どもも小さいので、私はパートタイムにしようと思って仕事を探していたのですが、求人はたくさんあるし時給も高くてビックリしました! 共働きでパートを探しているというご家族なら、仕事という面ではたくさん需要があります。子どもを預ける環境も整っているので、とても仕事しやすいと思いますよ。私自身、町立の「にこにここども園」にはとても助けられています。先生たちもすごく優しくて、親身に相談にのってくれますし。
健さん:それから、町の「子育て奨励金」もかなり助かっています。3年以上定住することを条件に、子どもが中学を卒業するまで、年間18万円を最長3年間支給してくれます。
みよさん:保育料無償もうれしい! こども園に通っていても、保育料がかからないのは本当に助かります。園で使う鉛筆とかクレヨンも支給していただけるし。小学校に上がってからも給食費が無償になるらしいです。この制度は、これからもずっと続くといいなと思っています。
―それはすごい! そういった情報はどこから入るんですか? 移住者同士で情報交換しているのでしょうか?
みよさん:こども園に入園する前は「子育て支援センター」に相談に通っていたので、そこでたくさんのご家族と知り合うことができました。今はコロナでみんなで集まることはできませんが、SNSなどを使って情報交換をしています。
あとは、町が発行している広報紙からも情報を得ています。小学校や中学校がどんなことに力を入れているのかなども書かれていて、いつも興味深く読んでいます。児童・生徒数が少ないからこそ一人ひとりをちゃんと見てくれているということも伝わってきて、これなら自分の子どもが入学するときも安心だなと思えました。
都会を求めて住んでるわけじゃない
―健さんは、地元の方や移住者の方と交流はありますか?
健さん:町営住宅に引っ越す前は社宅で暮らしていたのですが、そこのご近所さんたちがすごく仲良くしてくれましたね。震災前から富岡で暮らしていた方々もよく話しかけてきてくれました。僕たち家族のことを気にかけてくださって、ありがたかったですね。
―移住してみて、富岡町の印象はいかがですか?
みよさん:実は、原発のこととか、よくわからないまま移住してしまって。実際に暮らしてみたら、こんなに原発が近かったんだ! って驚きました。放射線大丈夫かな? と不安はありましたが、勉強会を開いてくれていたので何回か参加したり、自分でも放射線測定器を借りて測ってみたりしているうちに、そんなに心配しなくても大丈夫なんだなと納得できました。
健さん:僕はとにかく、静かなところが好きです。昼間は復興関係で人が多いですが、夜は本当に静か。これぞ「田舎暮らし」って感じで気に入っています。あとは、病院が充実してくれるといいかな。
みよさん:そうだね、小児科があるといいよね。町内の病院でも診てくれるんですけど、子ども用の薬がなかったりして、結局はいわき市の病院まで連れていくことになります。そこはちょっと大変かな。
あとは特に不満はないです。スーパーも、ホームセンターも、ドラッグストアもあるし。
健さん:なんでも揃ってるような都会を求めて富岡町に住んでるわけじゃないからね。
みよさん:確かに! 私も田舎出身でガヤガヤしているところがちょっと苦手なので、富岡町は住みやすいです。
健さん:ご近所さんが気にかけてくれる環境も、治安という面で安心ですね。
みよさん:引っ越してきた当初はまだ解体途中のところも多くて、ガラスが割れたままだったり、ちょっと怖いなと思う場所もあったけど、この1年ですごくきれいになりました。1年でこんなに変わるなら、5年後はさらに住みやすくなっているんだろうなと思います。富岡町で暮らせば暮らすほど、最初に感じた不安は無くなりました。
子どもの遊び場で親同士も交流できる
―お子さんの遊び場などはどうされていますか?
みよさん:2021年にできた「富岡わんぱくパーク」に連れていくことが多いです。夕方までやってるから、時間を気にせず利用できて助かっています。休日、お昼頃にゆっくり起きたとしても「運動しにいくかー」みたいな感じで気軽に行けるのはいいですよね。室内なので、雨が降っていても大丈夫ですし。
健さん:娘が「砂遊び場」コーナーにはまっていて。砂で作ったおにぎりを知らないママさんに「どうぞ」って持っていくのが好きなんだよね。
みよさん:そのときに「富岡に住んでるんですか?」とか、親同士で話して交流ができるのもいいですよね。土日は結構賑わっていて、町外から来ている人も多いみたいです。お父さんがひとりで子どもを連れてきていることもありますよ。
健さん:室内の施設は充実してるけど、外で遊べるような公園がないのが残念かなぁ。でも、これから手入れされていけば、遊具で遊べる公園も増えていくと思うので期待しています。
みよさん:私は大人が遊べる場所も欲しい!(笑)。子育て支援はとっても充実していて本当にありがたいんだけど、大人が息抜きできる場所ができるともっとうれしい。カラオケとか(笑)。
田舎暮らしならではの温かさ
―富岡町で暮らしてみて、印象的だったことはありますか?
みよさん:やっぱり、人が優しいということかな。
健さん:うん、今まで出会った方々もいい人ばかりです! 子どもがワーワー騒いでいても嫌がる人いないし。都会だとそうはいかないよね。
みよさん:町自体も、震災前の元の姿に戻すだけじゃなくて、ちゃんとこれからのことを見据えて復興しているんだなと感じます。元々住んでいた人たちのことも考えつつ、若い世代や子育て世代の人たちが暮らしやすいように、町全体が進化しようとしていると思います。
健さん:町で開催するイベントも楽しみだよね。今度初めて、娘をコンサートに連れていくんですよ。
みよさん:イベントごとは私も夫も好きなんですけど、娘がまだ小さいので迷惑かけちゃうんじゃないかって気が引けていたんです。でも、相談してみたら「全然大丈夫ですよ。親子ブースもありますし、もし泣き出しちゃったらすぐ外に出れるような席にすることもできますし」って言っていただいて。役場の人も相談にのってくれましたし、ちゃんと住民のことを考えてくれてるイベントなんだなぁと思いました。
―役場にはよく相談に行くんですか?
みよさん:はい、役場の保健師の方にはよく相談しています。本当に親身になってくれるんです。ママ友の間でも、大評判です!
震災後、人は少なくなっちゃったけど、きっと富岡町って元々あったかい町だったんだろうなと思います。そういう感覚が今も町に残ってる。「人は人」じゃなくて「自分も人も」って一緒になって考えてくれる。だから、これから移住してくる人たちも、最初は知らない人だらけで不安かもしれないけど、支えになってくれる人は必ずいますよって伝えたい。
健さん:きっとそれが普通なんですよね。誰かの相談に乗ったり、支え合ったりすることが、富岡町では「普通」のことなんだと思う。
みよさん:そういうところがすごいよね。移住してきても、寂しいって感じたことないもん。うちは核家族だけど、寂しいなんて全然感じないです。
移住するにはもってこい!
―これから、富岡町でどんな暮らしをしていきたいですか?
みよさん:趣味を始めたくて、よさこい踊りのサークル(さくらYOSAKOI天花)の練習に参加したりしてるんです。夫も誘ってるんですけど(笑)。自分でも何かサークルを作れたらいいなと思ったり。あとは農作物も育ててみたいかな。
健さん:育てたいフルーツがあるんだよね。「ポポー」っていうんですけど。農地もたくさんあるし、何か特産品が作れないかなと思って。役場に相談したら、とても安く貸してくれる農地があるそうなので、少しずつ試してみようかと考えているところです。何か新しいことを始めたいなら、富岡町はとてもチャレンジしやすいと思います。
みよさん:ちゃんと真剣に取り組もうとしている人には、町も力になってくれるしね。いろいろやってみたいし、やりたいことをやれる環境がそろっているなと思います。
私たちのポポー作りが成功して、それがお金になって暮らしが成り立ったら、「富岡町って大丈夫なの?」って思っている人たちにも、富岡の良さをわかってもらえるんじゃないかな。
健さん:やっぱり、町のことが分からないから「大丈夫なの?」って言葉が出てくるんだと思うんです。だから、実際に僕たちが何か作って成功して、良いイメージを発信していければいいなと思っています。
みよさん:移住するなら、富岡町はもってこいの町になったと思います。これからどんどん進化していくと思うと、すごく楽しみ。自分たちが町の進化の一翼を担えるって、すごいことですよね。元々住民だった人たち、移住してきた人たち、そしてこれから移住してくる人たち、みんなで新しい町を作って楽しく生活できるんじゃないかと思っています。
文:地域おこし協力隊 遠藤 真耶
及川健(きよし)さん・みよさん・小冬音(ことね)ちゃん
シャイな健さんと、明るい笑顔のみよさん。そして、黒目がちな目元がかわいい小冬音ちゃん。みよさんが健さんに惚れぬいて結婚。富岡町で出来ること・やりたいことを見つけながら、未来に向かってチャレンジしていく仲良し夫婦。「ポポー 」作りに興味のある人は、ぜひ一緒に挑戦を!